美容師の任意継続2026|退職から20日で決める健康保険

サロンを辞めて面貸しや業務委託に移るとき、健康保険には「退職から20日以内」という短い期限があります。ここを過ぎると、選べたはずの選択肢がひとつ消えます。
スタイリストとしてサロンに社員で勤めていた間は、給料から健康保険料が引かれていました。保険証もサロン経由で渡されていたはずです。
ところがこの健康保険は、退職した日の翌日になくなります。保険証もその日から使えません。
独立の準備は、物件やセット面、シザーの買い足し、SNSでの告知と、やることが山積みです。健康保険は後回しになりがちです。
ただ、この手続きだけは後回しにできません。期限が20日しかないからです。この記事では、その中身を順番に整理します。
「任意継続」はサロンの健康保険を最長2年続ける制度
任意継続とは、退職したあとも、サロンで入っていた健康保険にそのまま残れる制度です。
厚生労働省の資料には、こう書かれています。「健康保険の被保険者が、退職した後も、選択によって、引き続き最大2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度」です。
サロンを辞めたあと、美容師が入る健康保険は大きく3つに分かれます。
- 任意継続:サロンで入っていた健康保険を、自分ひとりで続ける
- 国民健康保険:住んでいる市区町村の健康保険に入る
- 家族の被扶養者:配偶者や親の健康保険に、扶養として入れてもらう
3つめの「家族の扶養に入る」は、収入の条件があります。日本年金機構の説明では、年間収入が130万円未満であることが必要です。60歳以上や障害のある方は180万円未満です。
さらに同居している場合は、その収入が扶養してくれる人の収入の半分未満であることも求められます。
ここでいう年間収入は、過去の実績ではありません。日本年金機構は「認定された日以降の年間の見込み収入額」と説明しています。独立したばかりで売上が読めない時期でも、見込みで判断されるということです。
指名のお客様を多く連れて独立する方は、この130万円をすぐ超えます。実際には、多くのフリーランス美容師が「任意継続か国民健康保険か」の二択になります。
| 比べる点 | 任意継続 | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 保険料のもとになるもの | 退職時の標準報酬月額(上限あり) | 前年の所得 |
| 家族の扱い | 被扶養者として入れられる | 加入する人ごとに保険料がかかる |
| 入っていられる期間 | 最長2年 | 制限なし |
| 手続きの期限 | 退職日の翌日から20日以内 | 14日以内 |
| 手続きの窓口 | 入っていた健康保険(協会けんぽの支部・健保組合) | 住んでいる市区町村 |
条件は2つ。期限は退職から20日です
任意継続を使うには、条件が2つあります。どちらも健康保険法に書かれています。
- 資格を失う日の前日まで、続けて2か月以上その健康保険に入っていたこと
- 資格を失った日から20日以内に、保険者へ申し出ること
「資格を失う日」は、退職日の翌日です。3月31日でサロンを辞めたなら、4月1日が資格を失う日です。20日を数えるのはここからです。
1つめの条件は、ふつうに勤めていればまず満たします。入社2か月以内に辞めた場合だけ注意してください。
問題は2つめです。健康保険法第37条は、申し出を「資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない」と定めています。
同じ条文には、ただし書きもあります。「正当な理由があると認めるとき」は、期限を過ぎた申し出でも受理できる、という内容です。
ただしこれは、認めるかどうかを保険者が判断する例外です。忙しかった、知らなかった、という理由が通る前提で考えるべきではありません。
20日は思っているより短い
面貸しやシェアサロンへの移行は、時期が重なります。最終出勤、引っ越し、契約の締結、道具の搬入、名刺とSNSの作り直し。
そのうえ独立直後は、まず売上を作ることに気持ちが向きます。3週間はあっという間に過ぎます。
そこでおすすめしたいのが、辞める前に判断を済ませておくことです。退職してから調べ始めると、間に合わない可能性があります。
申し出る先は、市区町村ではありません。それまで入っていた健康保険です。協会けんぽなら都道府県ごとの支部、健保組合ならその組合です。
どちらに入っていたかは保険証に書いてあります。返す前にスマートフォンで撮っておくと、あとで困りません。
保険料はどう決まる?国民健康保険との比べ方
ここがいちばん気になるところだと思います。順番に見ていきます。
サロンの負担分がなくなります
在職中、健康保険料は自分とサロンで半分ずつ負担していました。健康保険法第161条第1項に「それぞれ保険料額の二分の一を負担する」と定められています。
同じ条文のただし書きは、こう続きます。「任意継続被保険者は、その全額を負担する」。
つまり、サロンが払ってくれていた分が自分に乗ります。給与明細で引かれていた額のおよそ2倍が目安になります。
「任意継続なら今までどおりの金額」と思っている方が多いのですが、そうではありません。ここは最初に押さえてください。
ただし上限があります
そのかわり、保険料のもとになる金額には上限が設けられています。
厚生労働省の資料によれば、計算のもとになるのは次の2つのうち低いほうです。
- 退職時の標準報酬月額(給与をもとにした区分の金額)
- その健康保険に入っている全員の、平均の標準報酬月額
そのため、店長クラスで給与が高かった方ほど、この上限に頭を抑えられます。2倍まではいかないケースもあります。
この上限額は毎年見直されます。最新の金額は、入っていた健康保険(協会けんぽの支部や健保組合)の案内でご確認ください。
国民健康保険は「去年の所得」で決まります
一方、国民健康保険の保険料は、前年の所得をもとに計算されます。
厚生労働省の資料も、この点を任意継続の意義として挙げています。「退職後に所得がないにも関わらず、退職時の高い所得に基づく高い保険料額が算定される場合がある」からです。
美容師に当てはめると、こうなります。3月末でサロンを辞めて4月から面貸しを始めた場合、その年に届く国民健康保険の保険料は、サロン勤務時代の給与をもとに計算されます。
独立1年目は、面貸し料や材料費が先に出ていきます。指名のお客様が移ってくるまで売上も読めません。
収入が落ちているのに、保険料だけは去年の給与ベース。これが独立1年目に資金繰りを圧迫する原因のひとつです。
家族がいる方は差が出やすい
もうひとつ、見落とされがちな違いがあります。家族の扱いです。
健康保険には被扶養者という仕組みがあります。配偶者やお子さんを被扶養者にしても、保険料そのものは変わりません。任意継続でも同じです。
国民健康保険には、この仕組みがありません。加入する人それぞれについて「均等割」という保険料がかかります。
お子さんの分にも均等割はかかります。国は令和8年の健康保険法等の改正で、子どもの均等割を5割軽減する対象を、未就学児から高校生年代まで広げることにしました。裏を返せば、軽減があってもゼロにはならないということです。
ご家族が多い美容師の方ほど、任意継続が有利になりやすい傾向があります。
結論:両方の金額を出して比べる
どちらが安いかは、給与の水準、住んでいる市区町村、家族の人数で変わります。一律の答えはありません。
ですから、退職前に両方の金額を聞いてしまうのがいちばん確実です。
- 任意継続の見込み額:入っていた健康保険(協会けんぽの支部・健保組合)に問い合わせる
- 国民健康保険の見込み額:住んでいる市区町村の窓口で試算してもらう
どちらも、前年の源泉徴収票や直近の給与明細があると話が早く進みます。2つの月額を並べて、安いほうを選んでください。
独立にあたってのお金の流れ全体は、開業サポートのページでも整理しています。
美容師が見落としやすい3つの注意点
1. 1日でも納付が遅れると、その時点で終わります
これがいちばん怖いところです。
健康保険法第38条は、任意継続の資格を失う場合を並べています。そのなかに「保険料を納付期日までに納付しなかったとき」があります。
納期は法律で決まっています。第164条第1項では、その月の10日までです。初回だけは保険者が指定する日になります。
美容師の仕事は、繁忙期の波がはっきりしています。年末や3月の連休前は、朝から晩までシャンプー台とセット面を往復して終わります。
その月に納付書を出し忘れると、それだけで資格がなくなります。うっかりでも同じです。
対策はひとつです。口座振替や、まとめて前払いする方法が使えないかを、申し込むときに必ず聞いてください。案内の内容は保険者によって違います。
2. 傷病手当金と出産手当金は出ません
「任意継続なら、会社員のときと同じ給付が受けられる」と思われがちですが、違います。
健康保険法第99条第1項は、傷病手当金の対象を「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)」と書いています。
このかっこ書きは、第102条第1項の出産手当金にも及びます。つまり、どちらも任意継続では原則として支給されません。
美容師にとって、これは他人事ではありません。腱鞘炎や手荒れ、腰痛でハサミが持てなくなる期間は、誰にでも起こりえます。
休んでいる間の生活費は出ない。その前提で、貯えや備えを準備しておいてください。
なお、病院の窓口負担の割合は変わりません。治療を受けること自体は、これまでどおりです。
3. 2年で必ず終わります(途中でやめることもできます)
任意継続は最長2年です。第38条にも「任意継続被保険者となった日から起算して二年を経過したとき」と書かれています。
2年が来たら、国民健康保険に移るか、ご家族の扶養に入ることになります。終わる月をカレンダーに入れておいてください。
そして、覚えておくと得をするのがこちらです。令和4年1月から、任意継続は自分の意思で途中でやめられるようになりました。
第38条には、やめたい旨を申し出て「その申出が受理された日の属する月の末日が到来したとき」という喪失事由が加わっています。
厚生労働省の事務連絡によれば、申し出が受理された日の属する月の翌月1日に資格を失います。受理された月の保険料は納める必要があります。
同じ事務連絡では、いったん出した申し出は原則として取り消せない、とも示されています。
この仕組みは、独立したばかりの美容師と相性がよい面があります。
独立1年目は、前年の給与が高いぶん国民健康保険が高くなりがちです。そこで1年目は任意継続を選びます。
2年目は、1年目の事業所得が保険料のもとになります。面貸し料や材料費を差し引いた所得は、給与時代より下がっていることも多いはずです。
そのタイミングで国民健康保険を試算し、安ければ切り替える。こうした使い分けができます。
切り替えを検討するときは、必ず先に市区町村で国民健康保険の金額を確認してください。申し出は取り消せないためです。
退職前後のチェックリストと、確定申告での扱い
退職する1か月前までに
- 保険証に書かれている健康保険の名前と連絡先を控える(返す前に撮影しておく)
- 任意継続にした場合の保険料の見込みを、その健康保険に問い合わせる
- 国民健康保険にした場合の金額を、市区町村の窓口で試算してもらう
- ご家族の扶養に入れる可能性があるなら、その健康保険に条件を確認する
- 国民年金への切り替えも必要になるため、あわせて予定に入れる
退職した日の翌日から20日以内に
- 任意継続にするなら、その健康保険へ申出書を出す
- 国民健康保険にするなら、市区町村へ届け出る(資格を取得した日から14日以内と定められています)
- 初回の保険料をいつ、どの方法で払うのかを確認する
- 口座振替やまとめ払いが使えるか聞き、使えるなら申し込む
払った保険料は、確定申告で全額差し引けます
ここからは税金の話です。任意継続でも国民健康保険でも、払った保険料は社会保険料控除の対象になります。
国税庁は、控除できる金額を「その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額」としています。一部ではなく全額です。
さらに、生計を一にする配偶者やご家族の分を自分が払った場合も、その支払った金額について控除を受けられます。
ここで大事なのは、これは経費ではないということです。シザーやカラー剤のように売上から引く経費ではなく、所得から差し引く「控除」です。帳簿のつけ方が変わります。
確定申告のときに必要になるので、次のものは捨てずに取っておいてください。
- 任意継続の納付書の控え、または口座振替の記録がわかるもの
- 国民健康保険の納付済額のお知らせ
- 退職した年の源泉徴収票(給与から引かれていた分があるため)
- 国民年金の控除証明書
独立した年は、給与と事業の両方が発生します。申告の組み立て方は、確定申告サポートのページもあわせてご覧ください。
よくある質問
20日を過ぎてしまいました。もう任意継続は無理ですか。
原則としては期限内の申し出が必要です。ただし健康保険法第37条には、保険者が正当な理由があると認めるときは期限後の申し出でも受理できる、というただし書きがあります。まずは入っていた健康保険に事情を伝えて相談してください。認められるとは限らないため、並行して市区町村で国民健康保険の手続きも進めておくと安全です。
面貸しで働きながら、週2日だけ別のサロンに社員で入ります。どうなりますか。
新しい勤め先で健康保険の被保険者になった場合、健康保険法第38条により任意継続の資格はなくなります。勤め先の健康保険が優先されるということです。掛け持ちの働き方をする予定があるなら、社員としての契約がいつ始まるのかを先に確認しておいてください。
任意継続と国民健康保険、結局どちらが安いのでしょうか。
一律には決まりません。任意継続は退職時の標準報酬月額(上限あり)、国民健康保険は前年の所得がもとになります。さらに国民健康保険は市区町村によって計算が違い、家族の人数でも変わります。退職前に両方の見込み額を問い合わせて、実際の金額どうしで比べてください。この比較だけは、自分のケースで数字を出す以外に方法がありません。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
まずは無料相談から
「自分の場合いくらになるのか」だけでも構いません。公式LINEで無料相談を受け付けています。










