美容師の事業主貸2026|生活費の引き出しは経費になりません

事業用の口座から生活費を15万円おろしても、それは経費になりません。帳簿では「事業主貸」という欄に書きます。名前はかたいですが、やることは「お店のお金と自分のお金の行き来をメモする」だけです。
フリーランスの美容師さんが帳簿をつけ始めて、いちばん手が止まるのがこの科目です。「生活費の引き出しは経費なのか」「シザーを自分のカードで買ったらどうするのか」。ここを最初に整理しておくと、1年分の入力がぐっとラクになります。この記事では、国税庁の資料で確認できる内容だけをもとに、美容師さんの実際の場面に当てはめて説明します。
事業主貸・事業主借は「お店と自分のお金の行き来」を書く欄です
まず、3つの言葉を日常の言葉に置き換えます。むずかしく考える必要はありません。
| 帳簿の科目 | やさしく言うと | 美容師の例 |
|---|---|---|
| 事業主貸 | お店のお金を、自分(プライベート)に渡したとき | 事業用口座から生活費を引き出した |
| 事業主借 | 自分のお金で、お店の支払いを立て替えたとき | シザーをプライベートのカードで買った |
| 元入金 | 事業の元手にあたる金額 | 開業のときに用意した運転資金 |
この3つは、青色申告のときに出す「所得税青色申告決算書(一般用)」の中にある「貸借対照表(資産負債調)」というページの欄の名前です。事業主貸は「資産の部」に、事業主借と元入金は「負債・資本の部」に並んでいます。貸借対照表というのは、その年の初めと終わりに、お店にどれだけ財産と借金があるかを並べた一覧表のことです。
元入金については、国税庁の様式に「『期首の資産の総額』から『期首の負債の総額』を差し引いて計算します」という注意書きがついています。年の初めにお店が持っていたものから、返すべきものを引いた差額、という意味です。会計ソフトを使っていれば自動で計算されるので、自分で電卓をたたく場面はほとんどありません。
覚え方は「貸=お店から出ていく」「借=お店に入ってくる」
言葉が反対に感じる方が多いところです。帳簿はお店の側から見て書きます。お店が事業主(あなた個人)に貸したから事業主貸、お店が事業主から借りたから事業主借、と考えると迷いません。
生活費が経費にならない理由は、国税庁がはっきり書いています
国税庁のタックスアンサー「必要経費の知識」には、「家事上の費用は必要経費となりません」と書かれています。家事上の費用とは、家賃や食費、自分の洋服代のような生活のためのお金のことです。売上を得るために使ったお金ではないので、経費から外れます。
一方で、1つの支出が仕事と生活の両方にかかわることもあります。これを「家事関連費」といいます。この場合に経費にできるのは、同じページの言葉では「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られます。つまり、仕事で使った分をあとから説明できる形にしておく必要があります。
美容師さんだと、こういう支出がここに当てはまります。
- 自宅サロンの家賃や電気代……サロンとして使っている広さや時間の割合の分
- スマホ代……予約の連絡やSNSでの集客に使っている割合の分
- 車のガソリン代や駐車場代……出張カットなど仕事で走った分
反対に、自分の髪を切ってもらった代金やネイル代は、原則として生活のための支出です。どこまでが経費でどこからが生活費かは、美容師の経費の考え方のページでも整理しています。
税金や社会保険料も経費ではありません
同じページには「所得税や住民税は必要経費になりません」とも書かれています。事業用の口座から所得税や住民税を納めた場合、帳簿では経費ではなく事業主貸として書きます。
国民健康保険料と国民年金保険料も経費にはなりません。ただしこちらは捨てるところではなく、確定申告書の「社会保険料控除」という欄で所得から引けます。国税庁によると、控除できる金額は「その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額」です。生計を一にする配偶者や親族の分をあなたが払った場合も、その支払った金額が対象になります。
まとめると、帳簿では事業主貸として抜いておき、確定申告書では社会保険料控除として書く、という二段構えになります。忘れると税金を払いすぎることになるので、納付書や控除証明書は必ずとっておいてください。
美容師のよくある場面を、そのまま一覧にしました
実際の1か月で起きることを並べます。自分の通帳を見ながら当てはめてみてください。
| 場面 | 帳簿での扱い |
|---|---|
| 事業用口座から生活費15万円を引き出した | 事業主貸(経費にはならない) |
| 面貸し料(席料)を事業用口座から払った | そのまま経費 |
| 面貸し料をプライベートのカードで払った | 経費になる(払った元は事業主借) |
| カラー剤やパーマ液を事業用カードで仕入れた | そのまま経費 |
| シザーを私物のカードで買った | 経費になる(払った元は事業主借) |
| 指名売上の報酬が生活用の個人口座に振り込まれた | 売上になる(入った先は事業主借) |
| 国民健康保険料が事業用口座から引き落とされた | 事業主貸(申告書で社会保険料控除へ) |
| 所得税・住民税を事業用口座から納めた | 事業主貸 |
| 自分のカット代・ネイル代を事業用カードで払った | 事業主貸 |
| 生活費が足りず、自分の貯金から事業用口座へ入金した | 事業主借 |
「どっちの財布から出たか」では決まりません
ここでいちばん誤解が多い点をはっきりさせます。プライベートのカードで払ったから経費にできない、ということはありません。シザーも講習費も面貸し料も、仕事のための支出であれば経費です。ただ、事業用の口座から出ていないので、帳簿の上では「自分が立て替えた」という意味で事業主借と書き添える、というだけの話です。
逆に、事業用のカードで自分のネイル代を払っても、それは経費になりません。経費かどうかを決めるのは何のための支出かであって、どの財布から出たかではありません。ここを取り違えると、経費が実際より多くなったり少なくなったりします。
事業主貸が多いと税金は増えますか?
増えません。そして、引き出しを我慢しても税金は減りません。
理由はかんたんです。事業主貸と事業主借は貸借対照表の欄であって、売上と経費を並べる損益計算書のページには出てこないからです。青色申告決算書を見ると、1ページ目に売上や経費が並び、そのいちばん下に「青色申告特別控除前の所得金額」が出ます。事業主貸が出てくるのはその先の貸借対照表のページです。つまり、生活費をいくら引き出しても、その年のもうけの金額そのものは動きません。
「じゃあ何のためにあるのか」という疑問が出ます。目的は次の3つです。
- 通帳と帳簿の残高を合わせるため……引き出しを記録しないと、帳簿上の預金残高が実際より多いままになり、どこかで必ず合わなくなります
- 青色申告の55万円・65万円控除を受けるため……この控除には貸借対照表の添付が必要で、事業主貸の欄を空にしたままでは残高が合いません
- あとから説明できるようにするため……生活費が経費に紛れていないことを、自分でも第三者にも示せます
青色申告特別控除の条件をもう一度確認します
国税庁のタックスアンサーでは、控除額ごとの条件が次のように整理されています。
| 控除額 | 主な条件 |
|---|---|
| 10万円 | 上記以外の青色申告の方(簡易な記帳など) |
| 55万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して、提出期限までに提出する |
| 65万円 | 55万円の条件に加えて、e-Taxで電子申告をするか、優良な電子帳簿の要件を満たして電子データで備付け・保存をする |
貸借対照表を出す以上、事業主貸・事業主借は避けて通れません。逆にいえば、この欄を正しく書けていれば、55万円・65万円の条件のうち大きな部分をクリアしていることになります。
白色申告の場合はどうなりますか
白色申告で出す「収支内訳書(一般用)」には、貸借対照表を書くページがありません。そのため、事業主貸という科目を使う場面も基本的にありません。ただし、生活費が経費にならないことは青色でも白色でも同じです。収支内訳書の経費欄に生活費を入れてしまえば、申告の内容が事実と違うことになります。
今日からできる手順とチェックリスト
ここからは実際の作業です。難しいことはしません。4つだけです。
手順1 口座とカードを1本ずつ、仕事用に決める
新しく屋号の口座を作らなくても構いません。いま持っている口座のうち1つを「仕事用」と決めて、面貸し料の引き落とし、材料の仕入れ、報酬の振込をそこに寄せるだけでもかなり違います。カードも1枚を仕事用と決めます。ここを分けた瞬間から、明細がそのまま帳簿の下書きになります。
手順2 生活費は「決まった日に、まとめて」引き出す
毎日1万円ずつ引き出すと、1年で300行以上の事業主貸が並びます。毎月25日に1回、のようにルールを決めておけば、年間12行で済みます。金額が月によって違っても問題ありません。事業主貸は必要経費ではないため、引き出した金額がその年のもうけの計算に影響することはありません。
手順3 プライベートで払った仕事の支出は、レシートを分けておく
財布や封筒を1つ決めて、仕事で使ったレシートだけそこに入れます。事業主借として処理する分です。カード明細だけだと「何を買ったか」が残らないので、シザーや薬剤のように金額が大きいものほどレシートが大事になります。
手順4 年末にこの3つだけ確認する
- 通帳の12月31日の残高と、帳簿の預金残高が一致しているか
- 所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料の引き落としが、経費ではなく事業主貸になっているか
- 自分のカット代・ネイル代・家族での食事代などが、経費に紛れ込んでいないか
この3つが合っていれば、貸借対照表はほぼ完成します。もし途中で入力が止まってしまっている、通帳を見ても何の入金か思い出せない、という状態であれば、レシートと通帳のコピーをそのまま送るだけで帳簿を組み立てる記帳代行という方法もあります。
よくある質問
事業用の口座を作っていません。プライベートの口座だけでも申告できますか?
申告はできます。口座が1つでも、仕事の入出金を拾い出して帳簿をつくることは可能です。
ただし、家賃・光熱費・カード引き落とし・友人への送金などが同じ明細に混ざるため、1年分をさかのぼる作業がとても重くなります。まずは今ある口座の1つを仕事用と決めて、来月の面貸し料と報酬の振込先をそこに寄せるところから始めるのが現実的です。
生活費を引き出しすぎました。あとから税金で不利になりませんか?
引き出した金額の大小で、その年の所得の計算が変わることはありません。事業主貸として処理した金額は必要経費にならないので、もうけの金額には影響しないからです。
気をつけるのはお金の流れのほうです。事業用口座の残高が薄くなると、翌年に来る所得税・住民税・国民健康保険料の支払いに困ることがあります。とくに開業2年目は前年分の税金と保険料が重なりやすいので、売上の一部を残しておく習慣をおすすめします。
去年までプライベートの支出と混ざっていました。今から直せますか?
直せます。通帳とカードの明細をさかのぼり、仕事に関係する入出金だけを拾い出して、残りを事業主貸・事業主借に振り分ける形で整理します。
レシートが残っていない分は、カード明細やアプリの購入履歴が手がかりになります。どうしても内容が分からない支出は、経費に入れずに事業主貸として扱うのが安全です。裏づけのないものを経費にすると、あとで説明できなくなります。
※この記事は一般的な取り扱いをまとめたものです。制度は改正されることがあります。ご自身のケースについては個別にご相談ください。
まずは無料相談から
「自分の場合いくらになるのか」だけでも構いません。公式LINEで無料相談を受け付けています。










